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高松高等裁判所 昭和47年(行コ)3号 判決

松山市千舟町六丁目五番地一

控訴人

松山人形玩具株式会社

右代表者代表取締役

下出清治郎

右訴訟代理人弁護士

黒田耕一

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被控訴人

右代表者法務大臣

前尾繁三郎

右指定代理人

河村幸登

中野大

松下耐

民谷勲

西浦正

右当事者間の行政処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、当審において最初になすべき本件口頭弁論期日に出頭しないので、陳述したものとみなした控訴状によれば、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金八八万八八〇二円およびこれに対する昭和四〇年七月一二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決および仮執行の宣言を求める。」というのであり、被控訴人は主文同旨の判決および被控訴人敗訴の場合に備えて担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求めた。当事者双方の事実上法律上の主張、証拠の提出援用認否は原判決事実欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

松山税務署長が控訴人に対し控訴人主張のような源泉所得税徴収決定(以下徴収決定という)および法人所得金額更正決定(以下更正決定という)をなし、右徴収決定が控訴人に告知されたこと、右徴収決定と更正決定との間には、控訴人主張のとおり、右徴収決定において控訴人から控訴人代表者下出清治郎に対して支払われた賞与であると認定された金額中昭和二九年度分について七五万円、昭和三〇年度分について八三万五〇九〇円については、いずれも右更正決定によつて認定された控訴人の所得金額がさらに控訴人から下出清治郎に支払われたものと認定されたものであり、かつ、右金額の限度において右両決定に際しその認定に供された証拠資料が同一であるという関係があること、控訴人がその主張のとおり右徴収決定に基づいて昭和二九年度および昭和三〇年度の源泉所得税およびこれに対する加算税、利子税など合計九一万六七八二円を徴収されたこと、右徴収された金額のうち合計八八万八八〇二円が前記賞与額に対応するものであることおよび控訴人主張のとおり本件更正決定を取り消す旨の判決が確定したことは、いずれも当事者間に争いがない。

控訴人は、本件両決定の間には前記のような関係があるから本件更正決定を取り消す旨の判決が確定した以上、右判決の拘束力により、本件徴収決定は前記同一の証拠資料によつて認定された賞与の金額に対応する部分について無効であると主張する。しかしながら、行政庁が確定判決によつて拘束される限度は、判決の主文およびその判決の主文と一体となつた判決の理由の判断をこえるものでないと解されるところ、法人所得金額更正決定と源泉所得税徴収決定は、別個の法律関係に基づいてなされる別個の行政処分であり、両者の間には、それが同一年度の同一法人に対する課税処分であつても、前者が取り消されれば当然後者が効力を失う(もしくは行政庁において後者を取り消すべき義務を負う)べき関係も、前者に取消の原因となる違法があれば、常に後者にも同様の違法があるという関係もなく、このような両者の関係は、前記のような事実上の関係のある本件両決定の場合も同様である。したがつて、本件両決定の間に前記のような事実上の関係があることと本件更正決定を取り消す判決が確定したことによつて、本件徴収決定が無効(一部無効)であるとすることはできない。のみならず、いずれも成立に争いのない甲第六、七号証によれば、本件更正決定を取り消す旨の判決をなした理由は、本件更正決定の通知書に記載された理由の附記は、控訴人が青色申告書を提出していることに鑑み、旧法人税法三二条の要求する要件を充足しない違法のものであると認定したことによるものであり、右以外には何ら判断が加えられていないことが明らかであるので、右更正決定を取り消す判決が確定したことによつて、本件徴収決定が無効であると考える余地もないから、控訴人の主張は理由がない。

そうだとすれば、その余の判断をするまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がなく、原判決は相当である。

よつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤龍雄 裁判官 後藤勇 裁判官 小田原満知子)

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